カリフォルニアの大学病院にあるICUで看護師をして7年目。 ICUの中で起こる日々のドラマ。 アメリカの命の現場から生の声をお届け! アメリカ医療の裏側やナースの日常を覗いてみませんか? まずは「ハイライト」内の記事からチェック!!
あなたは『ありがとう』って言葉、1日に何回くらい口にしますか?
今日はとってもステキな患者さんのお話。
この患者さんは40代男性。
若い頃から患っていた若年性糖尿病から腎不全と膵臓疾患になってしまった方。
ちなみに、すごく多いんです、この、
糖尿病 ⇒ 腎臓病
というケース。
で、そんな中でICUに来るのは、
上記に続いて、
糖尿病 ⇒ 腎臓病 ⇒ 腎不全 ⇒ 腎臓移植 ⇒ 腎臓移植の拒絶 ⇒ 腎不全に逆戻り?
というコースを辿った患者さん達だったりします。
この患者さんは3年前に腎臓移植を受けて元気になさっていたのですが、
去年の暮、HIVやAIDSの患者さん多くみられるタイプの肺炎を発症し、
ER行きになってしまいました。
HIVやAIDSの患者さんと移植の患者さんの共通点は、
どちらも免疫機能が低下しているということ。
AIDS(後天性免疫不全症候群)という名から、
AIDSで免疫低下するのは言うまでもありませんが、
移植の患者さんは、自身のの免疫が新しく移植された他人の臓器を攻撃しないよう、
わざと免疫低下状態にするお薬を飲み続けなくてはならないのです。
そのため、薬による免疫低下状態が続く、
つまりは感染症に罹りやすい状態が続く、ということになります。
あ、なんか脱線しすぎた。。。
今日私がお話したかった話に戻りますね。
この患者さん、この肺炎がしつこく居ついたため、
去年の暮からずっと入院生活が続いています。
既に約1ヶ月半。
現在は大分元気になられて、ベッドさえ空けばモニター付きの普通の病棟に行ける状況。
でも、ここまで至るに当たり、結構大変だったみたいです。
一時は気管挿管され、呼吸器に繋がれ、生死を彷徨っていたようです。
長い入院生活の中で、幸い呼吸器のサポートも要らなくなるまで回復、
気管切開されては居ますが、酸素吸入のみでOKなまでになりました。
気管切開されていても、酸素吸入だけで済む方は、
気管切開の穴にバルブみたいのを着けると普通に声を出してしゃべることができるのです。
シフトが終わる30分前、この患者さんがこのバルブを装着して欲しいというので、
バルブを着けてあげると、私にベラベラしゃべり始めました。
この患者さんは、この1ヶ月半の入院生活の記憶がほとんどないそうです。
でも、そんな中で、ところどころ部分的な記憶はあるとのこと。
その記憶は、「家に帰る~!」って暴れ騒いでベッドから出ようとしている自分を
ナースが一生懸命なだめているという記憶だそうです。
そして、患者さんは、こう続けました。
「本当にね、今考えるとものすごく彼女(ナース)に対して申し訳ないことしたと思ってる。
たまに彼女を見かけるけど、あの時のこと、謝ったほうがいいかなぁっていつも思うんだ。
でも、もしかしたらそんな事起きてなくて、自分がただ悪い夢を見てただけかもしれないし。。。
とにかく、なんかすごく申し訳なくて。。。
悪いことしちゃったよ、ホント。」
なんて、律儀な人なの?!
思わずあの、 『噛む患者、唾を吐く患者』 さんの記憶がよぎった。(笑)
私は、
「え~?! そんなこと心配してるの?! 大丈夫よ~。
暴れだす患者さんなんてしょっちゅう居てナースは皆そうゆうの慣れっこだから。
それにね、それは酸素低下や薬の影響で頭が混乱して暴れだしちゃっただけで、
あなたのせいじゃないし、ナースはそれを百も承知だから大丈夫。
そんな事心配してストレス感じちゃったらダメじゃない。(笑)」
※英語での会話で敬語とかあまりないので、日本語訳はタメグチ調になってます。
それにしても、患者さんは患者さんで、いろんなジレンマがあったりするのねぇ。
でも、そんな事思えるようになったのも、元気になった証拠だから、ある意味嬉しい!!
そしてそこから話が発展して・・・
患者さん:
「看護師さん達には感謝の気持ちでいっぱい。
皆素晴らしくて、本当に尊敬してる。
世間じゃ、最優秀監督賞だの最優秀女優賞だのって盛大に表彰されてるけど、
はっきり言ってあんなのある意味馬鹿馬鹿しいよ。
もっともっと看護師さん達を表彰するべきだよ!
もし自分がTVのプロデューサーだったら、看護師とか医師とか消防士とか・・・
そういう本当に世の中に一生懸命貢献している人達を取り上げる番組を絶対作るね。」
な、な、な、なんて良い人なの?!
でも確かに・・・
この患者さんの言ってることって、一理あるかも。。。
看護師とか医師とか消防士とかって
(他のもいろいろ社会貢献度の高い職業ももちろん含め)、
映画監督や俳優に比べたら断然地味な仕事な訳で。。。
ナースは世間で地位高く認められてるけど、映画スターとかに比べると、
実際の細かい仕事内容を世間にお披露目することもなく・・・
一生懸命頑張ったところで、それが明確な結果としてすぐに現れる訳でもなく・・・
作業着を来て髪を振り乱して仕事するので、綺麗に着飾って颯爽と歩くこともなく・・・
演劇に例えれば、ナースはどちらかというと主演スターではなく、
黒子
みたいな影の存在なのかもね、きっと。
でも、この患者さんにとってみたら、
私たちナースのケアは、もしかしたら、どんな映画よりも心を打つもの
だったのかもしれない。
それにしても、何て嬉しいこと言ってくれるんだろう、この患者さん♫
更には・・・
「もちろんドクターも頑張ってくれてるんだけど、やっぱりナースには全然叶わないよ。
だって、ドクターは主に指示を出すだけで、実際にそれを頑張ってくれるのはナースだもん。」
お~~~っとぉ~?!
ちょっとちょっとお兄さん、あなたとっても良い目の付け所をしてるねぇ~?!
イイね、イイねぇ~!!
それよりなにより・・・
患者さんて、ただ話が出来ない状態にあったりするだけで、実際いろんなこと考えてるのね。
この患者さんの洞察力を通して、改めて気付かされました。
そして更に患者さん:
「てゆーか、皆どうやってナースの仕事こなしてるの?!
すごく辛い思いをしてる人達を毎日見たりしてたら辛くなるでしょ?
それ考えたら・・・僕にはとても出来ないよ。
本当に偉いと思う。」
私:
「確かにね、辛い思いをしてる患者さん達見るの辛いよ~。
患者さんが実際に感じてる程の痛みじゃないけど、
痛がってる人見たらやっぱり自分もその痛みを感じ取っちゃうからねぇ。。。
でも、だからこそ少しでも助けてあげたい、楽にしてあげたいって思うし、
何よりも、元気になりつつある患者さんを見たら、良かった~!って心から嬉しくなるし。
患者さんが元気になる姿を見れるのは、私にとって最高のご褒美だからね。」
患者さん:
「じゃあ、元気になって退院したら、ここに遊びに来てもいい?」
私:
「もちろん! ぜひぜひ来て欲しい~! お願い、そうして!
私たちにとってそれは本当に有り難いことだし、逆にこっちが元気になれるから。」
そこで、 『すごい発見☆』 の話をこの患者さんにしました。
そしたら、退院したあと、元気な姿を絶対に見せに来てくれるって!
私:
「ホント、楽しみだよ~!早く元気になれるように頑張ってね!」
患者さん:
「あのね、看護師さん達は、僕にとって、希望でもあるんだよ。」
お~~~!!!
じ~ん。。。 そんなこと言われたら涙が溢れちゃうじゃないの!!!
かれこれ30分近く話していたけど、
この患者さんは何度も何度も
「ありがとう」
って言ってくれて。。。
いっぱい嬉しいこと言ってくれたけど、
その黒目がちな目で、私のこと真っ直ぐに見つめて伝えてくれる感謝の気持ちは、
本物以外の何ものでもなく、私の心に真っ直ぐに飛び込んできた。
『ありがとう』って患者さんが一言添えてくれるだけでもその日はウキウキなのに、
こんなに一生懸命に感謝の気持ちを伝えようとしてくれるなんて!
逆に私の方が『ありがとう』の気持ちでいっぱいになって、
思わず私も『ありがとう』を連発しちゃいました!
でもね、ふと思った。
患者さんて、もちろん病気を治してくれることに対しても感謝してくれてるんだろうけど、
それよりもきっと、もっと身近なところでたくさん感謝してくれてるのかなぁって。。。
例えば・・・
寒くて凍えてるところにそっと温かい毛布を掛けたり、
常に痛みが無いか気遣ったり、
チューブが絡んで皮膚を刺激してないかチェックしたり
眠れるように出来るだけ部屋を暗くしてあげたり・・・
実はそんなちっぽけなことなのかもしれない。
映画俳優という職業に就いていたら出来ない、ベッドサイドのそんなちっぽけなこと。
そんなちっぽけなことで、人の心を打てるのなら、
相手の笑顔が直接見れるなら・・・
私はやっぱり 黒子 がいい。
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