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Angel Blue ~アメリカICUナースのブログ~

カリフォルニアの大学病院にあるICUで看護師をして7年目。 ICUの中で起こる日々のドラマ。 アメリカの命の現場から生の声をお届け! アメリカ医療の裏側やナースの日常を覗いてみませんか? まずは「ハイライト」内の記事からチェック!!

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今回受け持った患者さんは骨髄性白血病のお爺さん1人。



クリスマスに亡くなったジョニーおじさん と同じ病気の方で、ちょっと複雑な気分。



この患者さん、朝のシフト交代直前から血圧がどんどん降下したらしく、

既に2種類の昇圧剤の点滴の投与量がMAX

前日に数回目の気管挿管もされ、気管チューブを通して呼吸器から呼吸のサポートも受けている状態。



こんな感じの患者さんはICUで決して珍しくないのですが、

なんとか夕方までは血圧コントロールに成功し、血圧が安定していました。




午後の皮膚科のドクターの回診。



数日前から奇妙な水膨れが指や腰などに出始めたので、

皮膚科にもコンサルタントとして来てもらってるのです。

先日、皮膚科チームが水膨れ皮膚病変を少し切り取って生体検査に出したところでした。



そして、このドクターがこの患者さんの皮膚病変をカメラで写真に収めながらボソリ。




医師: "The biopsy result came back positive with Mucor."

(生検の結果でMucor陽性だったんだよ。)

私: "Oh, really..."

(あ、ホントにぃ・・・)

病室で仕事をしながらの会話だったので、危うく聞き流しそうでしたが・・・
 


私: "Wait! What?! Did you just say Mucor??!!"

(え?!ちょっと待って、今 Mucor って言った??!!)


 
医師: "Yeah. Mucor."

(そそ。 Mucor。)

私: "Oh...my...god..."
(え、うそ・・・)


 
私は Mucor と聞いて思わず鳥肌が立ちました。



普通の病棟でもそうだと思いますが、院内、特にICUで

聞くと誰もが驚愕を覚える恐ろしい言葉

Mucor



めっちゃくちゃ怖~~い感染症




特にICUでは

『死の宣告』 も同様。




ものすごく、致死率が高い病気で、私が読んだ記事によると

致死率50%~85%だとか。。。



半数以上の感染者が亡くなる訳です。



しかも、これは全体的な数字で、

最初から重症な患者さんが集まるICUでは、助からないケースがほぼ100%

と言っても過言ではないでしょう。



更に怖いことに、Mucor と判明してから亡くなるまでの時間は容赦なく、

数日

といったところでしょう。

1週間ともった患者さんは、私の経験上見たことがありません。




特にこのお爺さんのケース。

一番残酷なケースです。



骨髄白血病により病原菌と戦う白血球の数が著しく少ないのです。



健常な人の白血球数の基準値は、本によって多少異なりますが、

4000~9000

と言われています。



このお爺さんの白血球数は、たったの80程度



Mucor に打ち勝つ力、残念ながらゼロ。。。




なんにせよ、ドクターに一刻も早く知らせなくちゃ!



ICUのドクターに知らせると早速、超強力な抗生剤をオーダー。



これで少しは回復してくれるといいけど・・・。



と思う傍ら、患者さんの意識レベルは血圧と共にどんどん低下し昏睡状態に。

血圧も2種の昇圧剤だけではコントロールできなくなったので、

3種類目の昇圧剤の点滴も加えることに。



時間の経過とともに、患者さんの状態はどんどん悪化傾向にありました。。。





そろそろここで、

「この恐ろしい Mucor とやらは、いったい何ぞや?!」

という疑問にお答えしますね。





この恐ろしい病気の犯人は、

 
コレ ↓ ↓

 
ケカビ ← thefullwiki.org から拝借



何だか分かりますか?




正体は、真菌

つまり、カビ のことです。



そして、中でも Mucor は ケカビ

写真でも分かると思いますが、フワフワした産毛の様ですよね。



このケカビは、日常によく見られるカビの種類で、

土壌・糞・食品などの湿った有機物によく潜んでいるようです。



よく見られるカビなので、健康な人が吸い込んでも別状はありませんが、

免疫力低下傾向にある人や糖尿病を患っている人にとっては、

ムコール症という、非常に重い感染症になりかねません。




免疫低下の人が感染症に弱いのは言うまでもありませんが、

糖尿病の人もいろいろな理由で感染症に弱い傾向があります。



Mucor のような カビの感染症では特に、

血糖値が高い ⇒ カビの栄養である糖分が体内に豊富 ⇒ カビが繁殖しやすい

ということもあり、糖尿病の人においての感染が悪化しやすいのです。



では、このムコール症、どういう症状を引き起こすのか。

『メルクマニュアル医学百科家庭版 』の簡単な説明を引用させていただきます。


鼻と脳を侵すムコール症の症状としては、痛み、発熱、眼窩(がんか)の感染(眼窩蜂巣炎)による眼球突出などがあります。鼻から膿が出て、口の天井(口蓋[こうがい])、眼窩や副鼻腔周辺の顔の骨、2つの鼻孔を仕切っている壁の破壊も起こります。脳に感染すると、けいれん発作、部分麻痺(まひ)、昏睡(こんすい)が起こります。

肺のムコール症は、発熱、せき、ときに呼吸困難を起こします。


 

ウェブで見つけた感染例の写真をアップしておきます。


ムコール症 鼻 ← ispub.com より拝借

典型的な所見です。

私が以前受け持ったムコール症患者さんもこんな感じでした。

目と鼻が Mucor に蝕まれています。

外見からの判断は難しいですが、鼻の骨や副鼻腔まで感染が広がっていそうです。




結構過激な画像が多々あったため、比較的刺激の少ない画像を1枚だけお借りしました。

ムコール症は英語で Mucormycosis。

もっと詳しい病変所見を見るには、Mucormycosis で画像をググってください。

ちなみに、Mucor は、カタカナ表記にすると一番近い発音が、ミューコァー  ・・・かな。




今回の患者さんの場合、ムコール症でよく見られる目・鼻・口の病変はなく、

メインに見られたのは、手の指と腰の辺りに出来た、赤黒い大きな水膨れでした。


また、今まで病原菌が特定できなかった肺炎を起こしていますし、

意識レベルの低下/昏睡も、Mucor が肺や脳まで侵食している可能性を考えると

いろいろなことにあっさり理由がつきます。



今まで何度か痰や血液の培養検査をしていますが、なかなか正体を現さなかったこの犯人。

この患者さんの体を今にも食い尽くそうとしていた訳です。




この患者さん、既に重症のため、抗生剤の効き目もどれだけ見られるか分かりませんが、

数日中にお亡くなりになる可能性が、残念ながら高いです。




この患者さんがMucor に感染したという悲しい事実を知り、

その日の私は溜め息が絶えませんでした。

もちろん患者さんの病室ではそんな姿を見せられないけれど。。。



この患者さんの展望としては、おそらく翌日にでも家族会議を開き、

現状を率直に丁寧に説明した上で、安楽死というオプションを提示することになると思います。




コントロール出来ない病気が相手だから仕方ないのだけれど、

そんな時にはどうしても、看護師としての無力さを感じてしまいます。。。




それでもまだ、出来る看護は見つければたくさんあるはず!



病気の治療のお手伝いだけが看護ではありませんから!




例えば、亡くなるまでの間、患者さんをできるだけ痛みのない快適な状態にしてあげること。

患者さんが昏睡状態にあるので、患者さんは何も言えません。

たとえ呼吸が辛くても、どこかが痛くても、何も言えません。



痛み止めの点滴の量をバイタルを見ながら調節してあげたり、

シーツが体の下でぐちゃぐちゃになって肌を刺激していないかチェックするとか、

床ずれで体が痛くならないように、頻繁に寝返りを打たせてあげるとか、

耳が枕に潰れて痛くなっていないかとか、

気管チューブが入って乾いた口の中を湿らせたりきれいにしてあげるとか・・・



すごく細々としたことだけれど、気づいてあげられることってたくさんあると思います。




大事なのは患者さんのケアだけではありません。

昏睡&瀕死状態にある患者さんの家族のココロのサポート

これは本当に大切。


家族(親戚・友達・恋人などなど全て含めて)は大切な人を失ってしまう恐怖に、

パニック状態で、ひどいストレスや悲しみを感じているはずです。

その家族に対しての声掛け、説明、いろいろな気配り・・・

ナースの仕事として欠かせません。





こんな風に、挙げればキリがないくらい、ナースだから出来ることってたくさんあるんです!




死んでしまう!と分かった患者さんに対しても、

これからも自分の出来る限り精一杯の看護をしていけるよう頑張りたいです!!





ナースの心得、その2。


病気の治療のお手伝いだけが看護ではない!!






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この記事へのコメント

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コメント
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無題

お仕事おつかれさまです。
健常人はいつも触れてるようなカビが、免疫落ちた人には致命的な感染症になりますもんね。
末期で手の施しようが無い状態の患者さんと家族のケア、看護師さんのホントに大事な仕事の一つですね。

Re:無題

王子さん、コメントありがとうございます。

免疫低下の患者さんに対しては特に、手洗いという小さなことから手技に関わる大きなことまで、スタッフ全員で気を配っていかなくてはなりませんよね。

末期の患者さんにおいては、その人の歴史の最後の数ページに色をつけてあげられるように、ナースとして精一杯頑張りたいです。

安楽死

看護師やってますが、
恥ずかしながら知りませんでした…。
大変勉強になりました。
ありがとうございます。

一つお願いがあるのですが、
「安楽死のオプション」との事ですが、
具体的になにをするのか教えて頂きたいのです。
安楽死と聞くと
つい積極的安楽死を思い浮かべてしまうので。
よろしくお願いします。

Re:安楽死

コメントありがとうございます。

確かに安楽死と一言でサラリと表現してしまうと、戸惑ってしまいますよね。
すみません。。。

安楽死については、前から記事を書こうと思っています。
こう言った質問をいただいたのも、良い機会ですので、近々アメリカの安楽死事情の記事を書きたいと思います。

安楽死という言葉の定義については私も勉強不足なので、もうすこし調査をしてから記事を書きたいと思います。
もうしばしお待ちください。

呼吸器を外したり、鎮痛剤の点滴を始めたり、昇圧剤の点滴をストップしたり・・・
そういった意味で安楽死のカテゴリーに入ることに間違いないとは思うのですが、それが積極的か間接的か消極的かと言われるとどうなのでしょう。。。
調べてみますので、もう少し時間をくださいね。

その詳しい手法についても同じく記事にしてきたいと思います。
今後とも宜しくお願いします☆

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プロフィール

名前
Angel
職業:
看護師 Registered Nurse
趣味:
ゴルフ ピアノ 食べ歩き
自己紹介:
1978年、早生まれ
埼玉県出身
カリフォルニア在住
アメリカ暦9年

日本の大学卒業後、医学研究職2年。

その後アメリカの大学へ留学。看護学部を卒業しBSN(Bachelor of Science in Nursing)取得を経て、RN(Registered Nurse)免許取得。

2004年夏より、カリフォルニアにある大学病院のICU(集中治療室)にて勤務中。
7年目のベテランナース(?)

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